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雁風呂

2016年03月04日 徒然日誌(余話)
 雁風呂の伝承をご存知だろうか。
 北海道に猛吹雪をもたらした寒波も落ち着き、どうやらこれで冬将軍は退却らしい。湖沼の水鳥たちがシベリアに帰る日も間近い。白鳥や雁たちが、せわしなく啼きながら旋回を繰り返し、群れが群れを呼んで、大挙して飛び立っていく。北帰行の始まりだ。
 雁たちは、一旦、浜辺に降り立つ。昨秋、日本にやってきたとき、その浜に落とした木片をくわえ直して、シベリアに向かうためだ。木片は、途中、羽を休めるために海に浮かべる、言わば浮袋だ。
 北帰行がひとしき終わった頃、浜辺には、まだ残っている木片がある。厳冬を越すことができず、命を失くした雁の数だけの木片が残っているのだ。村人は、それを拾って薪にし、供養のために風呂を焚くのだという。これが雁風呂だ。
 津軽に伝わるこの伝説が、実際の生態によるわけではないことは、僅かの思案ですぐ分かる。それでも、冬の日本海の沈んだ空や蒼黒い波、横殴りの吹雪、そのモノートンの世界に、この慈しみを湛えた哀しい物語はよく似合う。
 この時期になると、毎年、雁風呂の一説を思い出すのである。

 車を駆って30分ほどのところに、小友沼がある。
 そもそもは300年ほど前に人工的に造られた、農業用溜め池らしいが、ここはガンカモ類の有数の飛来地である。白鳥や雁と言えば、宮城県の伊豆沼が著名だが、棲息の密度としては、小友沼が日本一ではなかろうか。とくにこれからの季節は、伊豆沼や蕪栗沼で冬を過ごした水鳥が、北帰行の中継点として立ち寄る。その数20万羽にのぼるという。
 日の出の前後に行けば、沼から餌場への一斉の「ねぐら立ち」に遭遇する。雁が、万羽単位で断続的に沼から飛び立っていくのである。羽ばたきがこの世を振動させる、まさしく言葉を失う壮観な様である。
 ねぐら立ちした水鳥のいくつかの群れが、わが家の真上を通りすぎることがある。ヤギの世話や農園の作業などをしている最中に、その頭上を啼き交わしながら雁や白鳥が隊列飛行していくのである。こういう風景が日常の生活に溶け込んであるということが、いまだに不思議だ。幸せな心持で、いつも茫然として見送る。
 なぜ茫然と立ち尽くすのか。渡り鳥という存在に神秘を感じるからなのかも知れない。毎年、寒くなれば渡ってきて、春に帰っていく、はるばる海を越えて・・・そういう旅者への郷愁なのかも知れない。もし古人も同じような思いをもったとすれば、その神秘を感じる気持ちや郷愁が、雁風呂という物語を作り出したのではなかろうか。厳冬の間、隣人であった雁たちへの思慕の情である。

 今年は、暖冬だったので、雪解けも早そうだ。雪が解け、春が来るのは嬉しいが、雪の下からやらなければならない事どもが一斉に湧き出してくる。さあ、忙しくなるぞと想えば、気もせわしなくなってくる。そうなる直前をぬって、早朝か、夕暮れの小友沼にちょっと足を伸ばし、雁風呂の伝説にでも思いを馳せてはいかがだろうか。
 なお、小友沼の概要や渡り鳥の飛来数は、能代市のウェブサイトに詳しく掲載されている。

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達者でな~

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